ドクター


一時間後、院長は実加を連れて、クリニックへ行った。
クリニックの診察室には白衣姿の斉藤先生がいた。
斉藤先生はこちらを見て、手招きをして実加に椅子に座らせるように指示する。
実加は院長の後ろに引っ込み、椅子に近づかない。




「実加ちゃん、どうしたんじゃ。」




実加は下を向いたまま。
もしかしたらギリギリになって検査が怖くなったのかもしれない。
しかし院長はそう考えなかった。
斉藤先生の白衣を指差した。
きったいつもと違う姿の斉藤先生に怖くなったのだろう。
斉藤先生もそれに気づいて白衣を脱いだ。
そして再び実加を呼ぶと、実加は素直に椅子に座った。





斉藤先生は普段するように医者モードになりながらも、小さな子供を相手にするかのように、




「これで胸の音を聞くから、服を捲くってね。」




と聴診器を指して言う。
実加は恐る恐る服を捲くって、胸を見せた。
斉藤先生が聴診器で実加の胸に触れると、実加はビクッと体を動かした。
院長がそっと後ろから肩に手をやった。
斉藤先生の呼吸の指示に実加はゆっくり呼吸をする。
次に背中から聴診をする。
斉藤先生は背中を見て、実加の体の細さを改めて確認した。
その後、リンパを触って、喉を見た。
実加は怖いのか、終始目を強くつむっていた。




その後、喘息の検査を始めた。
最後に吸入器で薬を吸う。
機械の前に実加を座らせて、吸入器を口に当てさせた。
実加はこの吸入器でどうなるのかわかっているのか、少し口から離して吸入器を持った。
機械が動き薬が出ると、




「ゲホゲホゲホゲホ!」



実加は咳き込み始めた。そして、吸入器を手から落とした。



「ゲホゲホゲホッ」



まだ咳が続いている。




「実加、苦しくて辛いな。けど、これをやらないと、喘息は治らないんだ。」



そんな言葉を斉藤先生がかけると実加は意地になったのか、吸入器を拾い上げて再び吸入を続ける。



「ゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホ!オエッ」



最後にはむせてしまった。
院長は斉藤先生に似ている、この負けず嫌い。
俺に似ている、この負けず嫌い。
とそれぞれ感じていた。



結局むせるばかりで吸入がうまくできなかった。
最後に簡易型の吸入器のやり方を教えられた実加。
その日は検査後、疲れて部屋で寝てしまった。