院長の言葉を聞いて納得したのか、それとも発作によって体が怠いのか、実加は抵抗を止めて目をつむった。
斉藤先生は再び聴診をする。
胸を聴診してたから、背も聴診をするため、実加を反対に向かせた。
院長がパジャマを首まで捲って、斉藤先生が聴診をする。
実加は相当疲れたのか、再び眠った。
斉藤先生は聴診器を首にかけ、




「ひとまず朝まで寝かせて、明日はここでできる検査をしましょう。
本当は大学病院で検査させたいんだけど。」





「なぁ、実。
大学病院の話なんだが、お前、このクリニックを辞めて大学病院に行ってみないか?愛知大学病院なんだが。」





「突然、どうしたんですか?」





「いや、突然なんかじゃないんだ。
実は、少し前からわしの旧友の愛知大学病院の院長から、実に誘いの声がかかってる。
お前はまだ若い。
こんなところの町医者で終わるのはもったいない。
それに、実加ちゃんの治療はここで治るものではない。
いずれは愛知大学病院へ連れて行くつもりじゃ。
先にお前に行って欲しい。」






「一度、考えさせてください。」





斉藤先生は院長の考えに全く気づいていなかった。
愛知大学病院は斉藤先生が研修中にお世話になった病院だ。
元々愛知大学の医学部を卒業している。
その後数年、アメリカのボストン病院で働いた後、院長少し手伝って欲しいって言われて働き続けている。気づいたら30歳になるまで働いていた。
本当は働き盛りの今にこそ、いろいろ症例を診たいと思っていた。
クリニックでもたまに珍しい症例の患者がいる。
斉藤先生が診察をするようになって、そういう患者を何人も早期に病名を当て、愛知大学病院へ送っている。
それもあって、愛知大学病院の院長から斉藤先生に誘いの声がかかっているのである。




実加のことがあるから、いますぐに愛知大学病院に行くことはできない。
しかし、早いうちに実加を愛知大学病院にやらなければ、実加の体はもたない。
実加と一緒に大学病院へ行くか・・・。





「まぁ、ゆっくり考えなさい。」  





院長と実は、実加を部屋に連れて行き、点滴が切れる時間まで斉藤先生は自分の部屋で眠ることにした。
実加は安心仕切った顔ですっかり眠っていた。