斉藤先生は仰向けになって、その隣で実加は斉藤先生の方を向くように横向きになった。
実加をチラッと見ると、目を開けたまま。
なかなか寝ない。でもよく見ると、目をつむりそうで、つむらない。
寝ようとすると怖いのか、目を開けようとする。
斉藤先生は左手でそっと実加の頭に手をやり、ポンポンっと撫でる。
実加は落ち着いてきたのか、目を閉じた。
斉藤先生は、その瞬間っ、目を疑った。




ぁあ、、、、俺に、、、似てるな。





いつか大学の頃、自分が寝ているところを友達に写真に撮られたことがあった。その写真の斉藤先生の姿と、実加の今の寝顔がそっくりだった。





俺と実加がきょうだいであることを調べるにはDNA鑑定。
DNA鑑定は、口腔内から細胞を採取して鑑定に回すだけだ。
細胞を採取することは簡単だけど、お互いの承諾書が必要となる。
実加がやりたいというかはわからない。その前に、俺が本当に実加と血のつながりがあるのか、知りたいとは積極的に思わない。
知ったところで、俺はどうしたらいいのかわからないから。
院長は何を思って俺たちのところに実加を引き取ったのか。
意図が気になる。





そんなことを考えながら実加の寝顔を眺める斉藤先生。
よく見ると、実加の顔面は首の肌の色に比べて色が悪い。
すると実加の眉間にしわが寄り、顔が曇り始めた。
よく聞くと呼吸とは別に雑音が聞こえる。






「ん、大丈夫か。」





斉藤先生が苦しそうな顔をし始めた実加に声を掛ける。
実加からの反応はない。
斉藤先生が隣の部屋にある聴診器を取りに、体を起こそうとすると服を引っ張られた。
引っ張られた方を見ると、実加が斉藤先生の服を握り締めていた。
いつもと慣れないところで寝ることは、実加にとっては孤独であったに違いない。
斉藤先生は、ゆっくり実加の手を自分の服から離した。
そして布団を実加にかけ、急いで隣の部屋へ聴診器を取りに行った。
実加のいる部屋に戻ると、




「ゲホッゲホゲホゲホゲホ!」




本格的に実加の発作が始まっていた。
実加は顔に力を入れて、体をくの字に曲げて胸元の服を強く握って咳き込んでいた。
斉藤先生は慌てて実加の着ているパジャマの胸元を開けて、聴診器を入れ肺の音を聞く。




ひどいな。思っていたよりもひどい音がする。
すぐに治療を始めないと。




と吸入をクリニックに取りに行こうと思いつき、顔を上げると部屋へ院長が走って入ってきた。
その手には吸入器と簡易型の酸素吸入器があった。
どうやら、実加がいつ発作を起こしてもいいように、用意しておいたようだ。
斉藤先生は慌てて院長から吸入器を受け取り、実加の口に当てた。





「おい、しっかりしろ。起きろ!ゆっくり呼吸しろ。」




と言い、実加を起こすため、斉藤先生は実加の顔を何度か叩いて、実加を起こした。
しかし、実加は吸入器の使い方がわからないため、うまく呼吸ができない。
すぐに酸素吸入器を口に当てた。そして実加を抱きかかえて院長と慌ててクリニックに向かった。




家とつながっているクリニックの扉を、院長が開けて電気をつける。
すぐに診察室のベッドに実加を寝かせる。
酸素吸入器をそばに置き、斉藤先生は院長が持ってきた注射と点滴をする。
咳はなかなか収まらないが、斉藤先生と院長は実加の様子をベッドのそばに立ってみていた。




「ゲホッ、、、、、、、ゲホッ。」




咳が少しずつ収まってくると、実加の呼吸は落ち着いてきた。
斉藤先生は実加の聴診を再びおこなった。
肺の音も少しは良くなってきていた。
聴診をしいていると、実加が目を覚ました。





「ん、、、、、ケホッ。」





と目をこすりながら開ける。
状況があまりつかめないようだったが、実加は聴診をされていることには気づいた。
そして慌てて服を下げて、聴診をしていた斉藤先生の手を払いのけた。
院長はすかさず、





「実加ちゃん、起きたようだね。苦しくはないかい。今はね、治療の途中だから、じっとしていてね。大丈夫だから。」




とやさしく声を掛けた。