昼過ぎ、斉藤先生が迎えに来る前に上着を用意した。
「実加?用意できてる?」
車椅子を病室に入れながら斉藤先生が入ってきた。
「うん。」
「じゃあここに乗って。」
ベッドからゆっくり降りた実加は車椅子に座った。
「靴下ないと寒いだろ。」
斉藤先生は私の棚を開けるとすぐに見つかったのか、靴下を実加に渡す。
「秋も終わって、冬に入ったから、この時間しか外には出られないな。」
斉藤先生は実加を連れて車椅子を押した。
実加は少し緊張してるのか、病院内で他の人に会っても挨拶できず、俯いている。
そんな実加を見た斉藤先生。
「大丈夫だから。」
斉藤先生が実加の頭を優しく撫でる。
「ほら、顔を上げて。」
ゆっくり実加は顔を上げる。
下を向いていたから通りすぎる人の足しか見れていなかった。
車椅子は進んでいるが、特に怖がることはないとすぐに分かったのだろう。
すぐに辺りを見回した。
ガラッ
ビュウッ
実加が体を縮める。
風が吹いて寒いのだろう。
斉藤先生は、実加にそっと持ってきた膝かけを肩に掛ける。
ゆっくり斉藤先生は車椅子を押す。
日なたに来ると暖かいので、二人は日なたに向かった。
ベンチに斉藤先生が腰掛ける。
「あ、これ青木先生からの差し入れ。」
というと水筒を取り出す。
水筒の中からは玉ねぎとコーンがたくさん入ったコンソメスープだった。
斉藤先生が二つのカップに注ぐ。
実加は斉藤先生に渡されたカップに口をつけた。
「おいしっ。」
思わずこぼれた。
玉ねぎの甘味が効いてておいしい。
斉藤先生と二人で顔を見合わせながら飲む。
飲み終わると斉藤先生は実加の背中に手をやり、寒くないように手でこする。
「早く退院したいよな。」
「うん。」
「食事だな。
食事をしっかり決められた栄養分を摂らないことには、体力が付かない。体力だけじゃなくて、実加の体中の臓器が元気に働くようにしてあげないとね。」
斉藤先生はもう片方の手で実加のお腹を軽く触りながら説明する。
そんなこと分かってるよ、それでも、、、っと実加は思ってるのか、目を逸らして俯く。
「大丈夫。
退院したら院長が、体にいいおいしいご飯を作って待ってるって言ってたから。」
それを聞き、実加は嬉しくなった。
院長のことは本当に好きなようだ。
「ケホッ」
「実加っ、早く病室に戻ろう。」
「もうちょっと・・・。」
「ダメだ。
久しぶり過ぎたかな。
また来たらいいんだから。」
と言い、ベンチから立ち上がった斉藤先生は実加の車椅子を押した。
二人は病室に向かった。