院長と実加がリビングに近づくと、リビングから電気がもれていた。
院長がドアを開けると、リビングには斉藤先生がいた。
どうやら、斉藤先生は実加の部屋を何度も開けて、実加が寝ていないことを知っていたのだ。
リビングで仕事をしながら、時々部屋を開けていた。
しかし、斉藤先生は実加が発作を起こしたことは知らない。
もちろん院長も。




院長はリビングにあるソファに実加を座らせた。
そして部屋のどこからか持ってきた毛布を実加の膝の上にそっとかけた。
院長はなにやらキッチンで鍋に火をかけ、少ししたら鍋の中に入っているものをマグカップに移し、それを実加に持ってきた。



実加は、院長に手で渡され、カップの中身を覗く。
牛乳の中に卵が溶かれて入っていた。
恐る恐る実加はそのカップを口に近づけ、飲み始めた。




一口飲むと、口の中に甘い牛乳が広がる。
そして卵の塊が胃に入ると、少しお腹が膨れる。
実加は、誰かに自分のためにこんなおいしいものを与えられたことは、生まれて一度もなかった。
昨日のかよこさんから買ってもらったジュースを除いては。



実加には相当おいしかったのか、二口目、三口目とどんどん飲んだ。
院長はそれを見て、また顔をほころばせた。
まるでおじいちゃんが孫娘の成長を喜ぶかのように。




「それを飲んだら、部屋に行こうね。」



と院長が言う。そして、




「実、実加ちゃんを部屋まで連れて行ってあげなさい。」



と続けた。




また、何で俺なんだというような顔をする斉藤先生。
本当に俺の妹なのか、俺には信じられない。
絶対、いつか確かめてやる。



斉藤先生は、実加が飲み終わって少ししてから、実加を部屋へ連れて行った。
実加は院長が歩いているときよりもっと斉藤先生から離れて歩く。
部屋に入ると、ベッドの前で立ち止まる。
斉藤先生は、ベッドの掛け布団を上げて、実加に入るように言う。
実加はいつもと違うところで寝ることに抵抗を感じていた。
それに、一人で寝るなんて、今までしたことがない。



すると院長が実加の部屋に入ってきた。



「実加ちゃん、一人で寝るのが怖いんだろ。」




実加は再びうつむいた。





「斉藤先生、一緒に寝てあげなさい。」




なんで俺が!?



という顔で院長を見る斉藤先生。しかし、院長の命令は絶対。斉藤先生は、こう見えて、院長には逆らえない。




しょうがないといいながら、渋々斉藤先生は先にベッドに入る。
実加の手を無理やり引いて、ベッドに寝かせる。
院長はその様子を見て、部屋の電気を消した。