帰宅してすぐ、鞄もコートも投げ出して、一人掛けのソファに深く沈み込む。疲労感。

ぼーっとテレビを眺めていると、嘘みたいなニュースの多いこと。義理の父親に殺された乳児。並べられた殺害の動機は何一つ共感できない。白昼の連続婦女暴行事件。女性はみんな無抵抗で正面から殺されているから、心を許した相手の犯行。凶器は、ピックハンマー? なぜそんなもので。とても同じ世界で起きたことだなんて思えない。



本当にのうのうと生きてきたと思う。二十七年間、ずっと。人間の怖さなんて知らない。他人の悪意にあてられたこともない。人生に大きな不幸もまだ起きていない。人に恵まれていて、何にも心を折られたことがなくて。のうのうと生きてきた。自分でも、つまらない人間になってしまったのではないかと思うほどに。

小山さんに「深みがない」と指摘された瞬間の悔しさには、身に覚えがあった。



(そうだ、あれは)



高校生の時だ。十年も前。

どうしてそうなったのかはさっぱり覚えていない。だけどその日、終礼の時間、女子生徒が一人自分の席で立っていて、他のみんなは着席してその子の話に耳を傾けていた。彼女が語ったのは身の上話。この上なくプライベートな話。普段見せることのないディープなところ。みんな少し感傷的になりすぎていたように思う。