あなたはわるい人ですか?




書きかけのサスペンス小説は、読み返してみるととっても陳腐だった。真相を知ってしまった今では、もうこれ以上、どれだけ怪しいサスペンスにしようとしたところで無理だ。どうしたって「彼は良い人だった」という結末に行きついてしまう。


編集部に電話をすると、小山さんはあのサスペンス小説の脱稿を楽しみにしてくれていた。それはちょっと申し訳なかったけれど。



「小山さん、あのね」



絶対に折れないように息を吸い込む。



「あの小説、ハッピーエンドにしようと思うんですよ」

『え、あれを?どうやって―――』

「あの男の人が、ほんとはただただ良い人だったというオチで」

『それは……つまんなくない?』

「つまんなくないです」

『……』

「つまんなくないですよ」






私は苦手を克服しない。残酷な世界は一切認めない。どうしたって幸せな、この世界を描く。おいしい幸せの描き方を探すのだ。

「こんなの現実とは違う」って、「ご都合主義だ」ってなじられてもいい。綺麗ごとしか書かない作家がいたっていいはずだから。私の空想するうつくしい世界が否定されても、高らかに、希望を描こう。








自信のある世界だけが、ほんものになっていく。









end