「高坂さん、重たいテーマの作品とか見たことある?」

「え?」

「小説じゃなくて、漫画とか映画でもいいんだけど。児童虐待とか、レイプとかそういうの」



その言葉だけでお腹の底のほうがヒヤッとした。それらの単語はとても暴力的だと思う。字面も音も、意味が言葉そのものを暴力的にする。できれば避けて生きたいと願う単語。



「なんか、そういうのには触れずに生きてきたんじゃないかなーと思って」

「……」



きゅっとスカートの裾を握る。

アニメも、漫画も映画も、残酷なものが受容されていくなかで、私は一切それらを受け取らなかった。流行りのものをおさえておきたい、という気持ちはある。だけどどうしても受け入れられない。

裏社会を題材にした作品はそこらじゅうに溢れている。圧倒的な暴力、残虐性、無秩序な世界。そんなものを目にしたら、きっと夢に出てきてしまうだろう。日常はいたって平凡なくせに、きっとそれらは私を無駄に傷つける。



「苦手、なんです」



正直に打ち明けると小山さんはさして興味なさそうに「でしょうね」という顔をした。



「でもねぇ。君のそれはこれから書いていく上で障害になると思うよ」

「障害、ですか……」

「だって綺麗ごとばっかり書いていてもね。汚いところや恐ろしいところを知らないで、人の心に刺さるものなんて書けないでしょ?」



その通りかもしれない。

小山さんの指摘は私の指をがんじがらめにする。



もう何も書けないような気がした。幸福な世界の、終わり。