数十分後、コースの最後のメニューであるデザートを食べ終えたとき、彼女はお手洗いに行くと言ってここから出て行った。
その間に個室の固定電話でボーイを呼んだ俺は、会計を済ませた。
きっと、心優しい彼女のことだから、彼女の目の前で会計すればきっと、ありがとうと何回も何回も言ってくれるに違いない。
けど、俺は彼女の謙遜した言葉を聞きたいわけじゃない。
ただ、彼女と一緒に居たくて、話がしたくて、彼女との距離を縮めたくて、あわよくば次も彼女と出掛けたくて――…
そんな、俺の欲の塊が詰まった今日の食事に、彼女からの綺麗な感謝なんてものは似合わない。
次、彼女をご飯に誘うとしたらどこがいいだろう。
出来ることなら、綺麗な景色が一望できるレストランへ彼女を連れていきたい。
だけど、まだ俺たちの関係は友人にも満たない。
そんな関係で、人目に付きやすい所に2りきりで行くというのは、あまりにもリスクが高すぎる。
やはり、場所を変えたとしても、ここと同じように全室個室の食事処がいいのだろうか――…
そんなことを考えていると、俺しかいない室内で、オルゴール調のメロディーが突然流れ始めた。
どこか、人の心を落ち着かせてくれるようなその音色は、5秒ほどで止んでしまう。
もしかして、彼女の携帯電話の着信音か…?
この部屋に入った時に彼女から預かった通勤カバンから聞こえた気がしたので、多分間違いないだろう。
すぐに止んだってことは、メールか何かか…?
そんな風に思っていると、スライド式の扉を開けて、彼女が帰ってきた。

