『――美味しい…!』
目の前には、先程ボーイが運んできたコース料理が2人分。
手始めに、前菜として出された酒菜5種盛り合わせを口にしたみのりさんは、すぐに頬を上げて幸せそうに微笑んだ。
そんな風に美味しそうに食べる彼女を見た俺は、満たされていく食欲と相まって、心の中で目の前にある幸せを噛みしめる。
きっと、彼女とならば、どんな些細なことでも、こんな何気ない日常でも、大なり小なりの幸せを見つけられるんだろうな、なんて、柄にもなく思ってしまう。
『嫌いなものとか、入ってなかった?』
食事にかこつけて、彼女の好みを探るのは少しあざといだろうか。
だけど、彼女のことをもっと知りたいという俺のどうしようもない欲望は、そう簡単に沈めることはできない。
『はい!私、そんなに好き嫌いはない方なんです。…杉原さんは?嫌いな食べ物とか、あるんですか?』
「俺?…――そうだなぁ…人参、とか?」
ふと浮かんだ、俺が唯一嫌いな野菜を口にすると、彼女は綺麗な眉をハの字にさせて苦笑いを溢す。
「…そんなに意外だった?」
少し経っても笑い続けている彼女に、少しイジけたような口調で問いかければ、彼女はすぐにバツの悪そうな顔をして小さく口を開いた。
『いえ、そういうわけじゃ…!ただ、大人びてる杉原さんの子どもらしい一面を見て、…ちょっと、可愛いなって』
そう言って、またふわりと微笑む彼女の方が、よっぽど可愛いと思った。

