――嘉人 Side――
「――で、何食べる?」
『…杉原さんのおすすめが食べたいです。』
――…っ
いつもいつも、彼女の言葉には心の奥を掴まれる。
ここに来たときは戸惑いと緊張で物を言うのもたどたどしかったというのに、茶目っ気たっぷりにえくぼを見せながら笑うものだから、彼女は分かりやすいのか、それとも掴みどころがないのか、よくわからない。
『…杉原さん?』
少しの間、固まってしまった俺を不審に思ったのか、彼女が控えめに俺の顔を覗き込んでくる。
「いや……ここの料理はどれも美味しいから、迷っちゃって」
『そうなんですか?わぁ…楽しみです。』
その言葉通り、彼女は声を弾ませて楽しそうに笑う。
人の言葉を信じやすいのか、俺の口から出まかせを真に受けて、俺がどれを頼むのか待っているようだった。
そんな彼女に、俺は心の中で苦笑いを溢す。
結局、いつも頼んでいる定番のメニューを2人分、個室に備え付けの電話で頼んだ俺だった。

