『――さぁ、行こうか。』

「え…っ?」


私の方に振り返った杉原さんと目が合う。

何を言われているのか分からないでいると、テレビでよく見るキラースマイルを浮かべた杉原さんは、さらにこう言った。


『探すんでしょ?落とし物。』

「で、でも、入り口が閉まってて…、」


そこまで言った時、どうして去り際の警備員さんに、ホールの入り口の施錠を外してくれないかと言うのを忘れたのに気付く。

何であの時言わなかったかな、自分…。


『…そんな顔しないで。』

「え…?」

『大丈夫。裏の入り口から入ればいいから。』


そう言って、杉原さんが私の傍を通り過ぎた瞬間、ふわりと香るシトラスな香り。

いい匂い、だと不覚にも思ってしまう浅はかな自分が恥ずかしい。

こんな時に何思ってるの…!と、自分に喝を入れながら、慌てて杉原さんの後を追った。