「これ以上、杉原さんに迷惑をかけるわけには、」
『俺は迷惑なんて思ってないよ。…それに、今日も食事に誘ったのは俺だし、俺の都合でこんな店しか連れて来られなかったし、むしろ、ここのお代くらい俺が払うのが普通じゃない?』
……。
にこやかに、眩しいくらいの笑顔を浮かべている目の前の杉原さんに、私は何故か何も言葉が浮かばない。
……なんだか、今夜は杉原さんに口に勝てないような気がする…。
うーん…と頭の中で少しの間悩んだ後、私は杉原さんに素直に奢られることにした。
「……分かりました。今日は、杉原さんのご厚意に甘えることにします。」
『!』
私が大人しく従ったのがそんなに意外だったのか、杉原さんはアーモンド形の瞳を真丸にさせて驚く。
そんな彼に、つい苦笑いを溢してしまう私。
思い起こせば一週間前、喫茶店で私がお代を持とうとした時だって、結局は杉原さんに言いくるめられてしまった。
杉原さんがお茶代を支払う代わりに、私の名前を彼に教えるだなんて、交換条件にしては不釣り合いな交換条件を提案されて。
その時、杉原さんが意外と頑固であることを学んだのだ。
「……その代わり、今度私からお礼させてくださいね?」
『フッ…そんなこと、気にしなくていいのに。まぁ、でも……楽しみにしとく。』
悪戯な視線を私に向けて口角を上げた杉原さん。
そんな彼を見て、これは本気にしてないなぁと思いながらも笑ってしまうのだった。

