――『杉原様。お待ちしておりました。御席はご用意させていただいております。…こちらへどうぞ。』
杉原さんに指定された場所に着いて、撮影用スーツから私服へと着替えていた杉原さんに見惚れてしまった私を、杉原さんがスマートに車に乗せて食事処へ向かったのは、1時間前のこと。
本社ビルが立ち並ぶ街を抜け、高級マンションやショッピングビル、レストランなど、富裕層が住んでいる都心の街で杉原さんは車を止めると、右も左もわかっていない私を上手くリードして高級ホテルのレストランへと足を踏み入れた。
完璧な営業スマイルを浮かべているボーイに連れられて歩く、杉原さんの少し後ろを、私はおろおろしながら歩く。
ここって…いわゆる、ミシュランのお店…ってやつ?
レストランの入り口で見たミシュランの星を思い出して、さらに肩に力が入ってしまう。
『――失礼いたします。』
ボーイさんは私達を奥の個室へ案内すると、綺麗なお辞儀をして去って行った。
2人なのに個室?――もしかして、芸能人である杉原さんへの配慮?
杉原さんの真向かいの席に座ったのはいいものの、戸惑いを隠せない私を見た杉原さんが、こちらへ微笑みかけてくれる。
『ここは全室個室なんだ。それに、一見お断りのお店でさ。俺としては使い勝手がいいんだ。…ごめんね、夜景が見えるお店とか、連れていきたかったんだけど。』
「いっ、いえ…!こんな素敵なお店、初めてで…ちょっと緊張してるだけで、」
正直なところ、いきなり杉原さんと2人きりで食事というドキドキな状況に私の心臓が耐えられるのか、いささか不安なんだけど…。
『大丈夫。誰も見てないから、マナーなんて気にせず美味しいもの食べよう。』
柔らかな声で、そう微笑みかけられたら、緊張だけが占めていた私の心に宿った安心と共に言葉にできない胸の高鳴りを覚えた。

