王道恋愛はじめませんか?




「じゃあ」と、この場を後にしようとしたみのりさんに、「ねぇ」とまた俺は彼女を呼び止めてしまう。


『?』


ドア前で立ち止まり、俺を見つめるみのりさんは俺の次の言葉をただじっと待っていた。


「あのさ、……今夜、時間ある?」

『今夜、ですか…?』


俺の問いに戸惑いつつも、みのりさんは「空いてます」と答えた。

その答えを待っていた俺は、考えるより先に口が動いてしまう。


「それなら、今夜…ご飯を食べに行かない?」

『――!』


まさか、俺の方から食事の誘いを受けるとは思ってもみなかったのだろう。

ドアノブに手を掛けたままのみのりさんは、一瞬で石のように固まってしまった。


『え…?わ、私と…ですか?』

「うん、みのりさんと。」

『えっと、でも、杉原さんの仕事は――?』

「俺はこの仕事が終わったら今日一日オフだから。」


俺の突然すぎる誘いに戸惑いを隠せないらしいみのりさんは、しどろもどろとしていて、なんだか小動物のようで可愛らしく見える。

きっと彼女自身、押しに弱いのか、「もっとみのりさんと話がしてみたい」といえば、恥ずかしそうにしつつも俺の誘いに乗ってくれた。

かくして、強引に彼女との食事の約束を取り付け、しれっと彼女の連絡先まで入手した俺は、彼女と別れた後、上機嫌で控室に戻ったのだった。