コンサート会場の入り口まで走れば、ドア前に立っている警備員が見えた。
会場の周りにいる人はまばらで、どうやら来場者は全員退場した後のようだった。
警備員さえも無視して、会場内に入ろうとした瞬間、
『ちょっと、君!』
「っ、」
警備員に止められてしまった。
『もう閉館の時間だ!関係者以外、立ち入り禁止だから!』
「あっ、あの!その、中に落し物しちゃって…!」
『ああ、それなら今、スタッフが場内の見回りに行ってるから――おい、待ちなさい!君!』
ただでさえ焦っていた私は、その見回りが終わるのも待てなくて、警備員の私を咎める声を無視し、強引に会場内に入った。
『待ちなさい!君!』
後ろから、さっきの警備員が私を追いかけて走ってくる。
ホールの入り口のドアの取っ手に手をかけるものの、内から施錠されているらしく、開かなかった。
――っ、ああもう!
どこかホール内に入れる処を探さなきゃ、というその一心で、後ろから聞こえる警備員の怒号に振り返りもせず、角を曲がった時――、
ドンッ
「きゃっ…!?」
不幸にも、誰かとぶつかってしまった。