彼女が電話を切って、少しの沈黙が2人の間に流れる中、口を開いたのは彼女の方だった。


『あの……杉原さん。』

「ん?」


ようやく、視線を本から彼女の方に向くことができた俺。

ちなみに、開いたページの内容なんて、一文字も理解などしていない。


『私、この後用事があるので…もう、行きますね。』


そう言って、申し訳なさそうにする彼女。

用事というのは、さっきの電話の件であることなんて、すぐに察しがついた。


「ん、分かった。…ああ、お代は俺が払うよ。」


さりげなく、テーブルの隅に置かれていた伝票に手を伸ばした彼女を止める。

"で、でも……"と、せめて自分の分だけは払いたい、とでも言いたげな表情を見せた彼女に、微笑みかける。


『今日は、俺から誘ったんだから、俺が払う。っていうより、払わせて?』

「……。」


さっきのように、少し強引な手を遣ってみたけれど、今度ばかりは彼女には通じず、未だ渋ったまま。


『じゃあさ――…』


咄嗟に思いついたことを口にすると、彼女は驚きながらも、最終的には俺の言い分に従ってくれ、丁寧に俺が無理矢理彼女にあげた本の感謝を述べてから、店を出て行った。