念を押すように、より彼女の方へ本を差し出す。


『……そこまで言われてしまったら、断るのも億劫になりますね。』


まるで、降参とでも言うように、彼女は綺麗な眉を八の字にさせて、微笑んだ。


『ありがとうございます。大切に、読ませていただきますね。』


ようやく、彼女が俺の差し出した本に手を伸ばして、受け取ってくれた時、彼女は俺が一番見たいと思った笑顔をくれた。

ああ……やっぱり俺――


♪~♪♪


まったりした空気の中、どこからか携帯電話の着信音が鳴り響く。

誰のだろう、と思う前に、サッとカバンから携帯電話を取り出したのは、目の前の彼女だった。

どうやら電話の着信らしく、ずっと彼女の携帯電話からは規則正しい機械音が鳴っている。

席を立とうとした彼女に、気にせずここで通話をしていいよと言うと、彼女は遠慮がちに通話ボタンを押した。


『……もしもし。』


俺はまるで、彼女の電話をあたかも聞いていないようなそぶりで、目の前にあるさっき買ったばかりの本の1ページを開くが、しっかりと耳は彼女の電話に集中する。


『うん。…ううん、今外にいるよ。』


電話相手は誰だろうか。

電話からは一切相手側の声が漏れて来ないため、通話相手が男なのか、女なのかさえ、分からない。