何だろう?
この時、私はその声が、自分自身に掛けられているとは思ってもいなくて、どこかのカップルがケンカでもしているのかと思っただけだった。
だから、振り向き様に左肩に触れた大きな手の平に過剰に反応してしまった。
驚きすぎて声も出せず、肩をビクつかせながら振り向くと、そこには息を切らした杉原さんが立っていた。
「え……っ」
『君…っ、結構、歩くの速いんだね…っは…っ』
え、ええ…っ?
目の前で起こっている今に、ついていけない。
息を整える杉原さんの左手には、高級ブランドのバッグとともに、本屋のロゴが入ったビニール袋が握られている。
もしかして……会計した後、私を追いかけて来た…?
――どうして?
分からないことがあまりにも多すぎて、私はただただ目の前にいる杉原さんを見つめることしかできない。
『君……、一か月前に、コンサートで落とし物をした子…、だよね?』
「ッ――!」
ぎこちなく、どこか確認するようにされた杉原さんの問いかけに、ドクン、と私の心が反応した。