頭が混乱して、目の前の状況についていけない私に対し、杉原さんはふいっと私からすぐに顔を反らしてしまった。

それを見て、なぜか心の奥がチクリ、と嫌な音を立てる。


あ…っ、そう、だよね…。

もう1ヶ月の前のことだもん。

あの杉原さんが、私のことなんて、覚えているはずないか…――。


どことなく気まずいような、沈んだ気持ちを抱えたまま、その場を去るしかない私。

近くに杉原さんがいると分かった今、本なんて選べるはずもない。

目当ての作家さんの本が並んでいた棚の前をスルーした私は、放心状態のまま、会計レジへと進んだ。


はぁ…何で私、あの時分かっちゃったんだろう…。

本屋を出て、店員さんのハキハキとした"ありがとうございました"の声を背中に受けつつ、トボトボと歩く。


杉原さんの顔を見たと言っても、目から鼻の部分だけだった。

口元は杉原さんの大きな手で、隠されていたから。

彼に忘れられていたことがそんなにショックだったのか、本屋を出ても心はモヤモヤを抱えていた。

――そんな時。


『…って、ちょっと待って…!』

「?」


ふいに後ろからかかった声が、耳に飛び込んできた。