「――本当に、ありがとうございました…!」


コンサート会場の裏で入り口で、深々と俺に頭を下げる彼女の手の中には、赤色のお守りがある。

廊下で逢った時とは打って変わって、今、俺の前にいる彼女はスッキリとした表情を浮かべていた。


「…いや、そんな感謝されることでもないから。」


正直言ってしまうと、これで彼女と別れるのは、どこか心寂しい気がする。

俺の周りにはいない、こんなに自分の気持ちを表情に乗せることのできるような人は。

そんな素敵な人だと思った、純粋に、彼女のことを。


『いえ…!杉原さんは、私の中の…――』

「え…っ?」

『っ……いえ、な、何でもないです…っ!』


ああ、もう駄目だ。

そんな風に、恥ずかしいのを隠しているのも、可愛すぎる。

触り心地の良さそうな頬を、ほんのりピンク色に色づけて、潤んだ瞳を泳がせる彼女の表情は、俺の心を掴むのには十分すぎた。


『ほっ、本当にありがとうございました…!』


そう言って、この場から立ち去って行こうとする彼女。

彼女の小さな背中を見ると、どうしても俺は引き止めたくなってしまうようで、無意識に"待って"と、また口にしてしまっていた。