『…え、浩介は?』
お手洗いから帰ってきた嘉人くんが、大きな瞳を更に大きくさせて立っていた。
「えっと、さっき……帰っちゃった…」
『え?』
え、何で?という困惑した表情で個室の扉を閉めた嘉人くんは、私の左隣に座った。
「今日は私のことを知りたかっただけだから、あとは2人でって…」
『何だよ…』
そう小さく呟いた後、嘉人くんは頭を抱えてしまう。
「あ、あの、嘉人くん…?」
『…ごめん、アイツ…いつもあんな感じで人を困らせるんだ。今日も、ビックリしたろ?』
力なくこちらを向いた嘉人くんは、あからさまに覇気がない。
確かに驚いたけど、神田さんがただ人を困らせているような人だとは感じなかった私は、フルフルと首を振って見せた。
「大丈夫だよ。…良い人だね、神田さん。」
『俺がいない間、変なことされてない?』
「されてないよ。大丈夫。」
嘉人くんを安心させるように微笑んで見せると、不意に大きな手が私の頭に乗った。

