王道恋愛はじめませんか?




『ゴメンね、こんな時間に。もしかして、仕事中だった?』


彼が私に電話をくれるときはいつでも、こうやって私のことを気遣ってくれる。

その優しさが、私の心を燻って離さない。


「ううん。大丈夫。今ね、日光に来てるの。」

『えっ…日光?』


電話の奥で聞こえる彼の驚いた声さえも心地良い。


「うん、今日から2泊3日で、社員旅行。」

『そうなんだ…いいね、楽しそう。』


そう言えば、前回会った時に嘉人くんにお土産は何が良いか聞こうと思ったのに、結局聞くの忘れちゃったんだっけ。

――肝心な、嘉人くんのために作ったビーズアクセのストラップも渡すの忘れちゃってたし。

あまりに嘉人くんと過ごす時間が楽しくて、充実し過ぎて、家に帰った瞬間ストラップの存在を思い出したのは言うまでもなく。


『日光で、溜まった疲れも癒しておいで。』

「……うん。」


嘉人くんの優しい声を聞きながら、優しい気遣いをもらいながら、電話の奥で嘉人くんも笑ってたらいいな…なんて思う。

あ…今、聞いておこうかな。

観光客の声で周りが騒がしい中、今の私には嘉人くんの声しか聞こえなかった。