――みのり Side――
『せんぱーい…っ!ヤバいです、感激です、泣きそうです、私…!』
あっという間にやってきた社員旅行当日。
右隣にいる城田ちゃんは、日光東照宮を目の前に感嘆の声を大きく上げ、本当に瞳を潤ませている。
『相変わらず人多いなぁー…』
左隣から上がったダルそうな声に顔を上げれば、そこには泊くんがボーっと突っ立っていた。
私の記憶が正しければ、泊くんが社員旅行に参加したのは強制参加を課せられた入社して1年目の時だけ。
今年もきっと来ないだろうと思ってたのに…どこで嗅ぎ付けたのか、城田ちゃんが参加すると知った途端、俄然参加を決めたらしい。
恋って、人を狂わせるのね…。
『先輩、知ってます?ここは徳川家康公が祀られている場所で、三代将軍の家光公が造替したんですよ…!まさにおじいちゃん想いのいい人、ですよねっ』
あ……城田ちゃんは家康公じゃなくて、家光公派なんだ…。
なんて思いながら、東照宮の歴史を熱弁し始めた城田ちゃんの話を聞いていると、ポケットに入れていたスマートフォンが震えた。
『あっ!私、御朱印もらってきます…!』
「えっ、ちょっと待っ――」
スマートフォンを手にした矢先、どこかへ駆けて行った城田ちゃんに慌てて着いて行こうとすると、泊くんから肩を掴まれた。
『俺が行くよ。…着信、なんだろ?』
未だに私の手の中で震え続けているスマホを一瞥した泊くんが、気を利かせて城田ちゃんの後を追いに行った。
…泊くんがいるから、迷子にはならないか。
と、少し安心した私は、スマホに視線を下げる。

