「それに、彼女も忙しいだろうし、」
『別に今すぐとは言ってないよ。俺も忙しいし、3人のタイミングが合った時で!』
「っ、いや、でもな…!」
どこで興味を持ったのか、浩介は全く身を引かずに、会いたい会いたいとねだり出す。
『どーせ、俺が帰ってくるまでその子に連絡しようとして悩んでたんでしょ?』
「っ……!」
な、何でそれを…!?という目で凝視すれば、浩介から「あんなに慌ててスマホを隠されたら誰だって気付くけど?」とシレッと告げられてしまった。
『俺が会いたいって言ってるって、彼女に連絡できんじゃん!』
その言い草はまるで、彼女に連絡する理由を提供してやっていると言わんばかりだ。
確かに浩介の思惑通り、これは彼女を食事に誘える絶好の理由にはなる。
けど、たとえ俺が同席してるとはいえ、浩介を彼女に会わせることに一抹の不安を覚えた。
『ほらほら、今すぐ彼女に電話して!』
「ちょっ、おい、浩介…!」
どこで覚えたのか、俺の手からスマホを抜き取る裏ワザを見せた浩介は、俺の制止の声も聴かずに、勝手に俺のスマホを弄り始める。
『へぇ~、真山 みのりさんって言うんだぁ?』
開いたままだったメール作成画面に表示されていた送信先に書かれた彼女の名前を見つけるなり、浩介はさらにふざけた笑みを深くする。
その顔が気に食わなかった俺は無言でスマホを取り返そうと手を伸ばしたが、悲しくも身軽にかわされてしまった。
『メールじゃ後々よっちゃんが何するか分かんないし、やっぱここは電話でしょ。』
「はっ?おいっ、それは本当にやめろって!」
いよいよヤバい、と焦った時には遅かった。
スマホから聞こえるプッシュ音と、目の前で悪魔のように笑う浩介。
――そして。
プツッ
『…もしもし?』
遠くから聞こえた彼女の声に、俺はガックリと項垂れるとともに、心の奥がドキンッと波打った。

