『――あ、満月』
「え……?」
杉原さんへのため口にも慣れてきた頃、隣から聞こえた声につられて顔をあげれば、漂う雲の間から顔を出す満月が見えた。
綺麗…――
満月を目にしたときにはいつも思うけれど、今は隣に杉原さんがいるせいか、遠くにある満月がより一層輝かしく見える。
『…満月はいつも綺麗だけど、今夜は格別…だな。』
(え……っ)
杉原さんの薄い唇から漏れた声は、私の心を波打たせるには十分で。
思わず、未だ満月を見つめている彼の横顔を見つめてしまう。
――…なんて綺麗な顔で、この人は微笑んでいるのだろう。
今まで見てきた中でとびきりの、素敵な表情をしている彼に、年甲斐もなく見惚れてしまう。
もう、私達の頭上に浮かぶ満月なんて、私の視界には映っていなかった。
この日に、満月の夜に、杉原さんと会えて良かった。
素直にそう思う。
彼と見た景色も、素敵な彼の横顔も、遠くに見えるイルミネーションもすべて、私の脳裏に焼き付いていく。
『……どうかした?』
「!」
私の視線に気づいたのか、突然杉原さんの視線が私を捕えた。
ドキン、と自分の心臓がうるさく高鳴る中、私は小さく口を開く。
「いえ…ただ、綺麗だなって、思って」
『…うん、俺もそう思う。』
私の言葉に同意するように笑って見せた彼は知らないだろう。
私が綺麗だと形容した対象が満月ではなく、それを見上げる彼自身だということを――…。

