―――ガラッ


「あっ……」


また突然、後ろのドアが空いた。




そこに立っていたのは、もちろん。




「磯野さん……」



ポツリと呟いて、あたしは顔を逸らした。




磯野さんは、靴の音を響かせながら真っ直ぐピアノへと向かった。



ピアノの蓋を開けて、赤い布をどかし、椅子に座って目を閉じた。



そして……。




教室中に響く色鮮やかな音色。キラキラしてて柔らかく弾(はじ)ける。




きっと、姫梨ちゃんのピアノもすごく上手いんだと思う。





けど、磯野さんのピアノは上手いとかそんな言葉で言い表わせないくらい心に染みる。





あたしも、目を閉じて磯野さんの演奏に耳を傾けた。





磯野さんのピアノを聴きながら、姫梨ちゃんのピアノも聴いてみたいなと思った。