『もうすぐ戦争が始まるぞ』
『もうそこまで鴉が来てる』
太陽が顔を出したばかりの早朝に廊下に築かれた窓の淵に留まったオオルリが2匹、そんな会話をしていた。
「君たち鳥の戦争か?それとも俺たち人の醜い戦争か?鴉は今何処にいる」
俺は窓に駆け寄りオオルリに話しかけた。…あぁ、ごめんな、びっくりしたよな。
『僕たちは戦争はしたくない』
オオルリはパタパタと綺麗な青い羽を広げまだ薄暗い森の奥へと姿を消した。
「志弦くんまた鳥さんたちとお喋りしてたん?もうちょっと寝とった方がいいんちゃう?」
廊下の曲がり角からゆっくりの出てきた幼馴染である太田琴音は言葉に出さずとも目線は俺の右脇腹を向いていた。俺の脇腹から広がる宇宙模様。俺に設けられたこの能力は、使えば自分の身体を蝕んでいく。俺の能力は[鳥の声を聴く]。たったそれだけの力なんかにこの命をくれてやるのはごめんだ…だけど鳥の声は良いものだ。人なんかよりよほど面白い。
「志弦くん聞いてる?」
「聞いてるよ、もう少し寝るよ」
「そお?ちゃんと睡眠はとらな体に悪いんやからね。志弦くん、目の下にクマさんできてる」
「琴音ちゃんは眉毛と眉毛の間にシワさんできてるよ。そんな琴音ちゃんも早起きしすぎじゃない?」
少し皺の寄った琴音の眉間に人差し指を指して俺は笑った。大方、琴音は睡眠をとっていないだろう。綺麗な青色の着物が昨日のままだ。風呂に向かう途中俺を見つけたんだ、多分。
「私はいいんよ!」
そう言って琴音は俺に背中を向け薄暗い廊下を静かに、でも琴音にしては荒く歩いて行った。
さっきのオオルリみたいだな。