「ただいま」

私がドアを閉めないうちに、

奥のLDKから

お母さんが飛び出してくる。

「美月、無事だったのね。

 お母さん、心配してたのよ」

そう言いながら私を抱きしめる。

それから私の顔を見るような、

でもそれを通り過ぎて

遠くを見ているような目で、

じっとみつめる。

「あら、肌が乾燥してるんじゃない?

 もう冬ねぇ」

そう言いながら後ろを向き、

リビングに戻っていく。

「...。冬じゃないよ。もう春だよ」

私が言うとお母さんは

ちょっと振り返ってふっと笑った。

「何言ってるの。

 棚の上にクリームあるから、

 後で塗っておきなさい」

そのままリビングに戻っていくお母さん。

もう冬は終わったんだよ..、お母さん。

それに私の肌の状態なんて

お母さんに分かるわけないいよ。

マスクと前髪で、とても肌が見えるような

状況じゃないんだもん。

私ははぁ、とため息をついて部屋に入る。

早く前の様に戻ってよ、お母さん。