好きですよ、先輩。(仮)



車から2、3分歩いた頃。


「ここ、俺の知ってる中じゃ一番の穴場ですよ」


春斗さんが指差すのは何の変哲もない堤防。


「どうしてここの堤防なんですか?」


ここに来るまでの間にも、堤防なんてずっとあったのに。


あたしがそう尋ねれば、春斗さんは堤防に登りながら


「ここからの景色が綺麗っていうのもあるんですけど…


やっぱり一番は、昔俺の大好きな人と出会ったところだから、ですかね」


ーーー”大好きな人”


その言葉に、やっぱり好きな人いるんじゃないか、と思ったけれど


…それ以上に、そう言って笑う春斗さんの表情はあまりにも悲しげで、思わず目を奪われてしまう。


「先輩?」


気づけば春斗さんが堤防の上からあたしに手を伸ばしていた。