「瑛梨、申し訳ないんだけど今日は席を外してくれない?」
「え?」



瑛梨ちゃんに向けて、優奈がそう言う。
その口調はいつも通りに見えて、少し冷ややかなものだった。
瑛梨ちゃんも戸惑いの表情で。

『あたしもね、マリアに話したいことあるの。だから、いいでしょう?』と。
優奈は笑って言う。

今日の優奈はおかしい。
どうしちゃったの、優奈。
普段ならそんなこと言わないのに。

そんな優奈を見かねてか、瑛梨ちゃんも『……わかった。じゃああたしは先に帰るわね』と納得した。



「ごめんね、瑛梨」
「いいのよ、気にしないで」



二人の間で繰り広げられるその会話を、私はボーっと眺めていた。
間に入ることはできなくて、ただ見ていることしかできなかった。

………優奈、一体どうしたの?



「じゃあ、あたしは帰るね。マリア、バイバイっ……瑛梨も」
「ばいばい、優奈」
「……バイバイ」



私はどうしてこの時、優奈の異変に気付いていたのに言わなかったんだろう。