「オレ、締め切り前で忙しいの。だから、おまえ。オレの代わりに、寮に戻ってくんね?」


 気持ちのいいお天気が続いた5月中旬の日曜日。

 自分の部屋のベッドの上で、少女マンガを読みながらくつろいでいると、ノックもなしにお兄ちゃんがあたしの部屋のドアを開けた。

「……っ、お兄ちゃんっ!? いきなり何!? っていうか、今、なんて言ったの? 早口すぎて聞き取れなかった」

 マンガを置いて、ベッドの上に起き上がる。

「それにっ、女子の部屋なんだから、ノックくらいちゃんとしてよねっ!」

 なんていうあたしの抗議の声なんかてんで無視して、お兄ちゃんはそのままずかずかとあたしの部屋に、我が物顔で踏み込んできた。

 ――かと思ったら、

「ほら、コレ、着替え。じゃ、結愛、頼んだぞ」

 と、フローリングの床にドサッと何かを置く音がした。

「え?着替え!? それから頼んだぞ……って、お兄ちゃん、片言すぎ。それじゃあなんのことかわかんないよ。ちゃんとわかるように説明してっ!」

 そう言い終わってから床を見ると、そこにデデーンと横たわっていたのは、お兄ちゃんのお気に入りの大きなバッグ。

 え? なんで、それを、お兄ちゃんが、あたしの部屋に?

 えぇぇ? まったく意味が分からない。