「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました」


 旅館につくと、従業員たちに出迎えられた。

 オレは流川…じゃなく、唯衣の肩に乗せられた。


 明らかに近い地面。

 頼むから顔を地面に引きずることはやめてくれよ、唯衣。


「その、カエルさんはどうしますか?」


 唯衣たちが荷物を預けると、

 若い仲居さんが唯衣の肩を指差して言った。


 カエルさん…

 オレのことだよな。


「さん」って。

「さん」付けされたの初めてかも。


 なんか、ちと嬉しいな。



「あ、ああ、これはいいです」


 唯衣が答えると、


「置いてかれると泣くんですよ」


 麻紀が言った。


「ええっ。そうなんですか!」


 本気でビビる仲居さん。


 …騙されんなよ、麻紀はからかうの好きなタイプだぞ。

 流川みたいにな。


「今日もついていくって暴れて泣いて。大変だったんですよ」

「ええええ…」

「車酔いするし」

「そ、そうなんですか? お薬いりますか?」

「さっき飲ませたから大丈夫です」


 ……。

 すっかり本気にしちまってる仲居さん。

 あ~あ。かわいそうに。


 別にオレ、暴れて騒いでねーし。

 唯衣と流川が勝手につれてきただけだし。

 車にだって酔わないし。

 もちろん、薬だって飲まないし。


 だって、ぬいぐるみだし。