最初は緊張でうまく話せなかったけど。

 先輩のリードで次第にほぐれてきて。


 文芸部のときの話や、

 先輩の大学の話、

 私の旅館のお仕事、

 最近笑ったこととか、

 他愛もない会話を続けた。


 なんでもない時間なのに。

 すごく楽しくて。


 ただ座っておしゃべりしてるだけなのに。

 すごく満たされていて。


 やっぱり…

 私はまだ、

 先輩のことが好きなんだな…

 そう思った。


 山のてっぺんにあるこの高校。

 坂の上から下の緑を見下ろすと、キラキラと太陽の光を浴びた葉っぱが輝いていて。

 セミの声がいっぱい鳴り響いている。

 
 会話が途切れて、2人で見るそんな光景に。

 なんだか、あの頃に戻ったような感じがした。


 制服を着た私と先輩が、

 ここにこうして並んでいるような…そんな。


「あ、バスだ」


 ずっと下の坂を、

 ゆっくりと一台のバスがのぼってきている。


 田舎町のバスは、一時間に一本だけ。

 ぼんやり見ていると。


「…隣り町まで出ようか?」


 ぽつん、と先輩。


「え?」


 驚いて顔をむけると、


「あ、いや、ほら、ここじゃ暑いし。咽も渇いたし。せっかくだし。バスも来たし」


 ちょっと慌てた感じの先輩がいて。


「あ、時間があれば、だけど…」


 頭をかきながら軽く微笑む先輩に。


「時間、いっぱいありますっ!」


 私も慌てて返事をすると。


「良かった」


 先輩のメガネの奥の瞳が、もっと優しくなった。