「暗くなるな。そろそろ帰ろうか」

「うん。そうだね」

「明日、イヤな講師の授業があんだよな」

「あ、私も。しかも明日は教習所で坂道発進のおさらいがあるんだよね」

「坂道発進?」

「うん。どうしてもバックしちゃってね。なんで上手くいかないんだろ」

「唯衣はそそっかしいからな。『落ち着け』とか言われてるだろ」

「あ、なんで分かるの?」

「そりゃ、分かるよ。一緒にいたからな」


 要くんが笑う。

 私も、少しきゅんとしながら微笑んだ。


 ありがとう、要くん。

 ホントにありがとう。


「じゃ、また」

「うん」


 ベンチから立ちあがった私たちはお互いに向き合った。

 秋の涼しい風が、そっと間を通り過ぎていく。


「今までありがとな、唯衣。そして、これからもヨロシクな」


 要くんの言葉に、私はその顔を見上げた。

 うん、うん、うん。

 何度も頷いて、要くんが差し出した手を握った。



 私たちは終わったけど、

 お互いの時間はこれからも続いていく。



 さっき、要くんは言っていた。

 今日はマナミさんが部屋に来ることになってるんだって。

 私も、今日は久しぶりに流川とラーメン屋さんでご飯だ。



 公園の出口で手を振る要くんに笑顔で手を振った。

 サヨナラとアリガトウと、

 それぞれに大切な人と、これからも頑張っていこうね。

 ……の、気持ちを込めて。





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◆あの日あの時
5.唯衣編「サヨナラとアリガトウ」了
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