視線を彼らから風の方へと戻す。
でも、耳は廊下側へ向けたまま。


すると、こんな話し声が聞こえてくる。



「由乃ちゃん、ちょーカワイイな。
背がちっちゃくて小動物みてー。」

「な。まじ天使だよ。純情そうなとこがたまんねぇ。」



風も、同じ声が聞こえていたのか、呆れた顔をしながら溜息をついた。



「ふふ。ねぇ、聞いた?
私、純情そうなんだって。」


「あーはいはい。おめでと。
そりゃあんだけ特訓でも何でもしてりゃあ"フリ"も上手くなるわよね。」


「ひどいなー。"フリ"だなんてっ。」



わざと傷ついた表情を向けて目をウルウルさせると、おでこにデコピンをお見舞いされた。



「あだっ! もー。赤くなるでしょー」

「知ーらない」




神楽坂由乃 (かぐらざかよしの)

高校二年生。十七歳。



腰当たりまで伸ばしているふわふわウェーブの掛かった栗色の髪の毛。

長い睫毛に、色素の薄い大きな目。


可愛いねって言われるのはもう当たり前。もう慣れっこなの。



そんな私は、この学校では"お姫様"なんて言われてて、見ての通りモテモテ。


毎日のように男の子から声を掛けられる私は、厄介な女子に絡まれることも、悪口を言われることもない。



それは、私が天使のように優しいから。


あと、もうひとつ。



「軽い潔癖症って言うのが、またツボだよな!」


「分かるわ〜。清潔感があってイイよな」



ーーーーーー私が、潔癖症(仮)だから。