「あーっ、由乃ちゃんの飲んでるそのジュースって、最近出たやつだよね!一口ちょうだーい!」
昼休み。私が席でメロンパンを食べていると、後ろからそう声を掛けられた。
振り返れば、その声の主はクラスメイトの橘さん。
「って、あ。由乃ちゃんそう言うの無理なんだっけ」
笑顔で近づいてきた彼女だけど、途中ではっとしたように足を止めてそう呟いた。
「…ほんと、ごめんね。
あげたいのは山々なんだけどぉ……」
私が申し訳なさそうに眉を下げると、女の子は手を顔の前で振りながら慌てたように言った。
「いいよいいよっ。気にしないで!
じゃあね〜」
笑顔で去って行く女の子を同じように笑顔で見送ってから食べ掛けのメロンパンに再びかじりついた。
「んっんー!」
すると、隣から態とらしい咳が聞こえた。見てみれば此方に冷ややかな目を向けている、現役陸上部の風(ふう)。
「風、どうしたのぉ?」
「…それ、気持ち悪いから辞めてよ」
笑顔で尋ねると、刺々しい風お得意の毒舌で返された。
「え〜?"それ"って何の事〜?」
上目遣いをしながら可愛く首をこてん、と傾げる。
それを見ていた何人かの男子生徒が、頬を赤く染めるのを横目で捉えた。
口元がにやけるのを隠しながら、周りに聞こえない程度の声で風に話し掛けた。
「でも、可愛いでしょ?」