初めて、神野くんの家に泊まった日の夜。泣き止まない私を抱きしめたまま神野くんはずっと、抱きしめてくれていました。

 その時、神野くんは不意に私の名を呼んだんです。

「…よもぎ」

「ッ…呼ばないで」

「え?」

「名前で、呼ばないで…」

 咄嗟に、名前で呼ばれることを拒否してしまった私に、神野くんは驚いて、きっと傷ついたはずなのに、それを一瞬のうちに隠してしまいました。

「…ッ神野くん、だけなんです。…名字で、呼んでくれるのは、神野くんだけなんです…。私、晴野、蓬だって…。清牙さんと、桃さんの、子どもだって、家族だって、そう思わせてくれるのは、神野くんだけなんです!」

「…分かった。もう呼ばない。…でも、俺さ、お前を名前で呼びたい。お前に、名前で呼んでほしい。…だから、全部片付いたら、名前で、呼んでいいか?」

「ッ…ごめん、なさい。…ごめんなさい…」

 泣きしゃぐっていた私を、神野くんは離さずに抱き締め続けてくれて、ずっと晴野って呼んでくれていました。

 でも、もう、大丈夫だから。