夏も終盤。
直、日のくれる薄暗い夕刻時、夏の残り香ものこさずに、
はやくも秋の足音が聴こえてきそうな冷たさ混じる雨のなか、
くろい学生服を身に纏った少年が、玄関先に掲げられた鯨幕をみつめ、佇んでいる。
凛とした顔立ちだが、まだすこしあどけなさが残る せんの細い風貌と、
肩をすぎる ながい髪から少女のようにも見える。ながい睫毛に滴る雨粒をはらいもせず、
ただ、それを重たそうに目をほそめる。
憂いに満ちた表情で少年は、とおくを、ただ、とおくを見つめ続けていた。
だが、それもながくは続かなかった。
玄関口の塀に背をつけたと思うと、地面へと崩れおちていった――――。
そこへ同じ年ほどの少女が通りかかった。
少女は崩れこんだ少年を見つけると、直様かれに近づき、かれの火照った額に手を当てる。
荒い息遣いへと変わっていく少年を背に抱え少女は、少年宅へと担ぎこむ。
少女は辺りをみわたし少年を介抱できそうな部屋を探す。
すると、居間から奥の客間の部屋まですべての襖が取り除かれ、
宴会が終わった直後のような風景がひろがっていあた。
食事を終えたお膳に酒瓶があちらこちらに転がり、法要座布団が散乱していた。
この辺りの村では未だ自宅で冠婚葬祭を行うところが多い。
この少年宅も例外ではないようだ。
客間の奥の祭壇に飾られた遺影には少年の両親にしては、すこし年配に、
祖父母にしては、すこし若い夫婦が写っている。
少女は遺影に軽く会釈をすると、葬式の跡の残る一階を離れ、二階へと繋がる階段を上がっていった。
少女は少年のものらしき部屋へと入ると 少年を横たえ、ぬれた学生服を脱がし、布団を敷きだした。
ここまでの作業をなんら躊躇いなくを素早くこなす。
少年を担いだことといい、大人なしそうな手足の細さ感じる風貌とは裏腹に、
そのまなざしからは 少女のどっしりとした逞しさがにじみ出ていた。
手馴れた手つきで介抱を続ける少女、
ゆらゆらと夜の帳がゆれ始めるころだった。