「 好 き 」

「ちょっとなづ…大丈夫?」



あたしの肩をユラユラ揺する光里。
今はお弁当を食べているところ。



「たしかに…なんか良いコトでもあったの?」



「…ふふふ」




似合ってる、だって!


しかも好きな男の子からそんなコト言われるなんてっ



髪の毛切って良かった!




「実はさ、朝葵くんに…」



「ちょっと!なんで光里が美咲ちゃんに言うのよ!」




光里がフヨフヨとあたしから視線を泳がせると、美咲ちゃんが笑い出す。



「今は自分だけの秘密にしときたいんだよね」




そうやってニコニコあたしに笑いかけてくる。



「あ…わかった?」



「わかるよ〜
きっと好きな人に何か言われたんでしょ〜?」




からかうように美咲ちゃんはそう言ってくるけど、実際何か言われたのは事実!




まだ秘密にしておきたいという気持ちは山々だけど、いつかその気持ちをおすそ分けしてあげよーっと!




******************


「じゃあ実行委員の集まり行ってくるね」



「うん、行ってらっしゃい!
じゃあ私は図書室で待ってるね」



「あれ?光里今日は部活ないの?」



「うん、今日はないんだー。
ほら顧問が…さ…」




「あー…あれか。スクープのやつで呼ばれてるってわけね」




そうかそうか。
光里の部活の顧問はスクープにされてしまった先生なのか。



だからないのね!納得。




「じゃあね」



そう言ってから教室を出ようとすると、
葵くんがあたしの教室のドアのところで待っていた。



「あおい、くん?」



「あ、小鳥遊さん」



フワッと笑顔を見せる葵くん。



また胸がきゅん…と音を立てる。



毎日毎日好きになっていく。
でも、なればなるほど莉子ちゃんの顔が頭から離れない。




「どうして…ここに?」



「小鳥遊さんを迎えに来た」



「そ、そっか」



思わせぶりな態度。
逆にあたしを苦しめる。



「じゃあ、行こっか」



「…うん」



葵くんは何も知らない。
葵くんはあたしの何も知らない。



苦しい想いをしてるのも知らない。
知ろうとも思わないよね、きっと。




でも、次の言葉であたしの心は晴れる。



「小鳥遊さんショートの方が似合うね」



「えっ、あ…そうかな?」



突如髪の毛を褒められる。
びっくりしてあたしは実行委員の紙などを落としそうになってしまった。




「俺は、長い方も好きだったけど今の方が好きかな」



「…ありがとう」



恥ずかしいぃ〜っ



面と向かって言われると、ホントに恥ずかしいんだなぁ…。



似合ってるとかって言われたの始めてだから、男の子から言われるのは。




「俺はさ…」



そこまで言うと、朝の新聞の記事を貼ったであろう男子があたし達の姿を見て面白くない顔をする。



それだけなら良かったんだけど…。




「園田ぁ」



やっぱりそう来るよね。



「なに?」



無表情のまま葵くんはその男子の方に振り返る。



やばい、この時の葵くん怖い…。




怒ってるのか警戒してるのか分からないけどすごく怖い…。



「お前も人のコト言えねーじゃんかよぉ
彼女はどうしたんだぁ?」



「それは関係ないだろ」



「あるだろーがよ、浮気かぁ⁈」



浮気なんて人聞きの悪い…!
あたしを迎えに来てくれただけなのに



「あ、葵くん…」



すると葵くんは大丈夫。と言わんばかりにあたしに先に行くように促すけど、今度はあたしも黙ってはいない。



「自分の行動見直してから言ったらどうですかぁ⁈」




「もう、うるさいなっ!葵くんのこと悪く言わないで!」




「小鳥遊さん…」




「は?なんだお前」



「そっちこそ何よ!朝葵くんに言われた腹いせでやってるわけ⁈
ホントにやることが子供だね!」




「なっ…!」




「あたしそういう人が一番だいっきらい!」




あたしは言うだけ言って、葵くんの腕を引っ張ってとにかく走って逃げる。




あの男子が何か言ってたけど、あたしは無視して走り出す。




「た、小鳥遊さんっ」



「あはははっ!
見た?あの男子の顔っ」




思い出すだけで笑えて来る。



…って




「ご、ごめん…余計なことしたよ…ね」




不安になりながら、言うと葵くんはびっくりした顔しながらこう言ってくる。



「ううん、助かった。まさか小鳥遊さんがあんなこと言ってくれるとは思わなかったし」



「あんなこと?」



「葵くんのこと悪く言わないで!…ってやつ」




ニコニコしながら葵くんはあたしにそう話す。




「あ…っあれは!深い意味とかはなくてですね!助けたい一心で言っただけであって…」




「っははは
分かってるから大丈夫。それにちょっとかっこよかった」



そう言う葵くんの横顔はほんのり赤く染まって、すごく優しい表情をしていた_____。