ガラガラガラ…とドアを開けると、
案の定誰もいなくて。



「いつもどこに座ってるの?」



「えーと、このシートのすぐそばの所なんだけど…結構いい席だからすぐ取られちゃうんだぁ」




そう言いながら、あたしはいつもの席に向かう。




「あ、莉子ちゃん‼︎
こっちだよ、こっちこっち」




そう言って莉子ちゃんを手招きすると、
莉子ちゃんは驚いた顔をする。




「ねぇ、なづ」



「ん?なぁに?」



「ここの席のジンクス、知らないの?」



「ジンクス?なにそれ」



「ここの席に放課後一人で座ってる男の子と2人きりで座ると、恋に落ちる。ってやつよ」




その席がある方向を見ながら莉子ちゃんはゆっくりと話す。



「へぇ〜‼︎
そんなジンクスあったんだね‼︎」



「なづさぁ、座ったでしょ?」



「え?誰と?」



「葵くんだよ‼︎
この前座ったんでしょ?」




あたしの顔を覗き込みながら、
莉子ちゃんは話かけてくる。




「え、あ、うん。座った…よ?」



「葵くんのこと、どう思ってるの?
…私はジンクスなんか信じてないけど、
なづの行動見てればジンクスもあるのかなって思っちゃうんだよ」




「……なんとも思ってないってば」



「ほんとに?」



「ほんとだってば‼︎
第一、あたしは恋っていう感情が分からないの…好きな人出来たこと…ないから」



そうだよ、あたしは恋したことないの。
だからどんなものなのか分からないの…




「…そっか。
じゃあ私の勘違いなのかな」



「そうだよ、てか絶対そう‼︎」



「なら、良いけどね」



「…え?」




莉子ちゃんはそれだけ言うと、
いつもの席の方に向かっていってしまう




「あたしが、葵くんのこと…好きだって思ってるの…?」




その呟きは小さくどこかへ消えていってしまった。



_____その時、君に見られていたとも知らずに________