「あのね、カミサマがね、ボクの願いを一つだけ叶えてくれるって言ったんだ、だからね、
ユウコちゃんと一緒に外の世界を見てみたいってお願いしたの。そしたらね、いつの間にか動けるようになってて……!」
フカフカクマは、それはもう、大袈裟なくらい声を弾ませて、この世の誰よりも幸せそうに、喋り続ける。
「1日だけ、時間をくれるんだって、だから、早くしなくっちゃっ!」
まるで興奮を隠しきれない子供のように、跳び跳ねているのか、バフバフと布団が揺れている。
……ええっと。
どこから、突っ込んだらいいだろう。
あまりにもファンタジーな展開に、ようやく、合点がいった。
これは、幻覚でも、幻聴でもない。
疲労が蓄積されたことによって見る、ただの悪夢だ。
「……悪いけど、私は行かないよ」
「そ、そんなぁ、」
落胆したフカフカクマの声色に、若干、自分の不甲斐なさを感じる。
でも、私にはもう気力が残ってないんだよ。ゲームで例えるなら、ライフは限りなく0に近い。
もうさあ、どうせならもっとマシな願いごとにしなさいよ。なんで、私がセットなのよ……。
夢の中でさえ、外出は億劫だ。冷たい視線を浴びたら、今度こそ私はもう立ち直れないだろう。
もっと優しい人間の家で暮らせていたら、また違った人生もあっただろうに。
このまま、こんなあちこち散らかったゴミ屋敷みたいなところで、一人ぼっちで、ずっと動けないままいなきゃいけないなんて、本当、地獄だなあ……。
ふと、急に、なんだかフカフカクマが不憫に思えてきた。
さっきの喜びようも、当たり前といえば当たり前だ。
私だって、喋ることや、食べ物を食べることが出来なくて、動くことさえ出来ない、ただ同じ景色を見続けるだけの毎日を過ごしていたとしたら
例えたった1日だけ動けるようになったとしても、きっとフカフカクマみたいに、歓喜して……。
私にとっては何気なく過ぎていく1日でも、フカフカクマにとっては、まるで重みの違う、お金で買うことの出来ない、かけがえのない貴重な1日。
ふ、と思考を止める。
いつの間にか、辺りは静かだ。
フカフカクマは……?
そっ、と布団の隙間から辺りを覗き見た。

