「ちょっと待てって!」


全力で走ってもやっぱりすぐ捕まってしまう。


「はぁ~…なんで逃げんだよ」


「だって…」


あんなこと言って、きっとお店だって大変なことになってる。


「別に事実なんだし」


事実──その言葉に嬉しさを覚えつつもよく考えたらむかついてきた。


「っそもそも颯斗が女の子ににこにこするから!」


「だってゆのが笑えって言ったんじゃなかった?」


それはそうだ。
私が言ったのに嫉妬して颯斗のせいにしたりして。
こんな自分嫌だ。可愛くない。
なんでもっと素直に妬いたって言えないんだろう。


「…もう知らない…っ」


颯斗のバカ。
素直じゃない自分に腹が立って、悲しくなって視界がにじむ。


教室へ戻ろうと後ろを振り返ると同時に引き寄せられる体。


一気に大好きな匂いに包まれる。


「ごめん。意地悪しすぎた」

「颯斗なんか知らないもんっ…他の子に可愛いとか言っちゃってへらへらして!」


性懲りもなく素直じゃない言葉をぶちまける。


「俺可愛いなんて言った?」

「お客さんに美しいとか誘われて光栄だとか言ってたじゃん!」

「だってあれマニュアルに書いてあんだもん」