…午後8時。猛スピードで仕事を終わらせた私は、やっと帰る事を許された。

「お疲れ様です。仕事は終わったんですか?」

部長のデスクから、こちらを見た藤岡部長が問いかける。

「・・・はい、すべての業務は終えましたので、お先に失礼します」

無表情のまま、そう言った私は、頭を下げると、オフィスを出た。


大通りを歩いて、駅に向かっていると、公園の方から、猫の鳴き声がした。

ちょっと覗いてみると、凄くかわいい猫がこちらを見て鳴いていた。

キョロキョロと辺りを見回し、同じ会社の人間がいない事を確認した私は、その猫に近づいた。


「かわいい~。どうしたの?迷子?それとも捨てられたの?」

その問いに、猫は、みゃ~という返事だけを返してきた。

…私は、極度に、動物が好きだった。

子供の頃から、犬と猫を飼っていたせいかもしれない。

…実は、私の部屋にも、猫を飼っている。


・・・あまりの猫の可愛さに、私は思わず猫の顔に、自分の顔をスリスリ。

連れて帰ってあげたいけど、私の家には、もう猫がいる。喧嘩をさせるわけにもいかず、がっくりと肩を落とした。


「…そんなに可愛らしい顔、するんですね」

「・・・」

聞き覚えがあるその声に、顔がこわばって、声の方を見る事が出来ない。