夏川先生の後ろを歩いて、数学科室に向かう。


先生って、意外と背高いんだ。


ちょっと癖毛なのか、黒い襟足の髪がクルってしてる。


ん?もしかして寝癖?


なんてじろじろ背後から見ていたら、視線を感じたのか、先生が振り向いた。


寝癖のあたりを手で押さえて、照れ臭そうにぐしゃぐしゃした。


あれ、なんか可愛いじゃん。




数学科室に着くと、夏川先生は席に座って、私のさっきの答案用紙を出した。


「ほとんどが空欄だ。採点するまでもなく赤点。」


うっ…。返す言葉もない。


「いくら内部推薦だとしても、ここまでの点数では推薦も危ないぞ。」


「は…はいぃ。」



「秋野、夏休み補習。」



「えぇ~?!補習?!」



ヤダヤダヤダヤダ!


夏休み学校来るのだって嫌なのに、夏川先生と毎日顔合わせるなんて…。


「9時から2時間、10日間。午前中で終わりにするから。ちゃんと来いよ。」



「…わかりましたぁ…」



渋々了承し、失礼します、と部屋を後にしようと後ろを向いた。


「それから」



それから?


「答案用紙に回答以外の余計なものは書かないように。

…こういう落書きをするのが可愛いと思っているなら、それは大間違いだ。」



無表情で先生は言った。


「…っっ!!!」


顔が赤くなった。


恥ずかしくなって、私は走って部屋を出た。


やっぱり夏川先生は苦手だ。


可愛いなんて思った私がバカだった。