『すぐ桃華ちゃんちに行くから、待ってて。』
拓也さんはそう言うと電話が切れた。
何分たったのか、わからない。
気が付いたら拓也さんは私の目の前に座っていた。
「桃華ちゃん、大丈夫…じゃないよね。
ごめんね、巻き込んじゃって。
夏美のやつ、連絡もよこさないでどこほっつき歩いてるんだか。」
苦笑いしながら私に言ってくれてるが、心の中では心配で心配でたまらないんだろう。
私が言うのも何だけど、拓也さんは夏美Loveだ。
休みの日に映画を観に行ったら、こっそり後をついてきたことがあった。
…夏美にはバレバレだったけど。
そんな人が今の状況で平気なわけがない。
私は正座をして、ひざの上でぎゅっとこぶしを握り
「拓也さん、あの…」
意を決して話し始めた。
夏美と揉めていたこと。
今日夏美の好きな人と2人でいるところを見られてしまったこと。
夏美が誤解してしまったこと。
きっと今は1人で考えたいのだということも。
すべてを話し終えた私に拓也さんは
「そっか。」
とだけ言って黙ってしまった。
その顔は少し悲しそうだった。
「拓也さん、怒らないんですか。」
「怒る?
誰のことを?」
「わ、私のことをです。」
「え、俺が桃華ちゃんのことを怒る?
そんなことする理由ないよ。」
キョトンとした顔をして私を見た拓也さん。
私はてっきり怒られると思っていたので、彼の反応に拍子抜けした。
だって私のせいで夏美はどこかへ行ってしまったのだから
怒られて当然だ。
それなのに…
「それに怒られなきゃいけないのは俺のほうだ。」
「え…?」
こんなことまで言っている。
一体どういうこと…

