『桃華ちゃんちにさ、
夏美、お邪魔してない?』
…え?
どういうことだろう?
私たちが喧嘩というか、揉めてることを知らないのかな。
「…いえ、来てませんけど。」
『そっか…ごめんね、変なこと聞いて。』
聞きたいことはそれだけだったようで切ろうとする拓也さん。
そんなところは彼らしいけど、こっちの身にもなってほしい。
夏美に何かあったんじゃないか、気になって仕方がない。
「待ってください、拓也さん!
夏美、まだ家に帰ってないんですか?」
拓也さんの焦り具合。
居場所を探してるような口ぶり。
きっと今家に行ったところで夏美はいないんだろう。
夜8時をさそうとしてるこんな時間に、
無断で外出するような人じゃないんだ、夏美は。
それにめんどくさがりだから、買い物は陽が沈む前に済ますのに、
今この時点で家にいないのはおかしい…。
ひょっとして、私たちとわかれたあと
何かあったんじゃないの…?
『…桃華ちゃんに隠し事はできないな。
実はまだ夏美が帰ってきてなくて。
桃華ちゃん、何か心当たりある?』
夏美が帰らない理由…。
こうして誰にも連絡しないでどこかへ行ったことは前にもあった。
…それはお母さんが亡くなってすぐのこと。
みんなで探したけど全然見つからなくて、警察に相談しようとしたところで
夏美はふらっと帰ってきた。
どこに行ってたんだ、という拓也さんの言葉をことごとく無視していたが
お父さんに聞かれたときはただ一言
『一人になって考えたかった。』
そう答えた。
もしかして今回も、一人で考えたいことができたのかな。
まさか…
「拓也さん…私…グスッ。」
『え、どうしたの?
…泣いてる?』
「わ、私のせいだ…
夏美が帰らないのは私のせいだ…
ごめんなさい、ごめんなさい…。」
ケータイを握りしめながら
私は謝り続けた。

