「それともう一人のお友達だけど。


彼に想いを伝えられないって言ったよね?


それはどうして?」



急に高野くんの話をふられて、焦る私。


私の中ではもう終わったことだし…。



「…彼は桃のことが好きなんだと思います。


そんな彼に私の想いを伝えるなんて、


迷惑だと思いませんか?」




高野くんにはたくさん助けられた。


たくさん迷惑をかけてきた。


それなのに、私が想いを伝えたら、彼は嫌な気持ちになるんじゃないかな。


彼には幸せになってほしいから、邪魔はしたくない。



「もし彼が彼女のことを好きだとしても、


夏美ちゃんが遠慮する必要なんてないさ。


それに想いを伝えたところで、誰も君を責めることはない。



さっき自分で言ったじゃないか。


あとは自分の気持ち次第、だろう?」



そう言って笑う永人さんはどこか寂しげだった。


…桃もそんな顔をしていたときがあったな。



でも永人さんの言葉はたしかに私に響いた。



友情も愛情も、私の気持ち次第で変わるんだ。




「そうでしたね、自分で言ったこと忘れてました。


…私、彼に想いを伝えようと思います!」




「あぁ、そうしなさい。」



永人さんに背中を押され、私は決意した。



結果がどうなろうと、構わない。



大切なのは伝えること。


言葉にして想いをぶつけること。



それを教えてくれた永人さんには感謝しかない。




「永人さんのおかげで今後のこと、決められました。


何から何まで本当にありがとうございます。」



「いやいや、たいしたことを言えずにすまんね。」



永人さんは本当に謙虚な人だ。


彼の言葉に、私はとても救われたのに。




「私にとっては、たいしたことです。」




「…そう言ってくれると嬉しいよ。」




…少し目を潤ませている永人さん。


もしかしたら、彼の大切な人を思い出していたのかもしれない。


自分ができなかったことを私に託そうとしてるのかも…なんて考えすぎかな。





「あの、もし迷惑でなかったら、でいいんですけど…


またここに来てもいいですか?


母の故郷ですし、永人さんにもお会いしたいし。


友達とのことでまた悩むかもしれないし…って


そんな話聞くの嫌ですよね…。」



私は言いながら反省した。


何勝手なこと言ってるんだろう。


大人の永人さんが見ず知らずの子供の相談受けるなんて


どう考えても変な話だ。


やっぱりいいです、と言おうとしたとき



「僕は構わないよ。


夏美ちゃんこそ、相談相手が僕みたいなおじさんでいいの?」



と言ってくれた。


…どこまでも優しい人だな…。



永人さんにお礼を言い、連絡先を交換した。


と、ここで携帯を見ると…



「うわっ…なんだこれ…。」




メール256件。


着信128件。



…そのほとんどが兄、拓也からだった。




「…ご家族には何も言わずに来たの?」



「…はい。」



あとで連絡しようと思ってはいたんだ。


でも永人さんと話してるうちに忘れてしまった…。


これはさすがにまずい。


拓也からだけではなく、父さんや弟からもきてる。


…かなり心配しているようだ。


もしかしたら捜索願いが出されているかもしれない。



青ざめる私に永人さんは



「荷物をまとめてきなさい。


駅まで送るよ。」



と優しい言葉をかけてくれた。



最後まで迷惑をかけてしまった…。



今度来るときは何かお礼の品を持ってこよう。



そう心の中で決めた私は、慌てて荷物を持ってきて



永人さんの運転する車で駅まで向かった。