「具合悪い?」
「いや、平気。」
ここで気づかれたら、今までの練習が無駄になる。
あの時間が無駄になるなんて、そんなことしたくない。
「…ほんとに?」
「ほんとに」
「ほんとにほんと?」
「ほんとだよ。」
「ほんとにほんとにほんと?」
「ほんと。
もう、高野くんしつこいよ。」
何回も聞いてくるので思わず笑ってしまった。
ただお腹はグーで殴られてるので、あまり盛大には笑えない。
ケガしてなかったら、思いっきり笑ってたのにな…残念。
「…やっと笑った。」
「え?」
「さっきからずっと難しい顔してたから。」
「あ…。」
それは一生懸命いつも通りを演じようと思ってたから。
いつも通り無表情でいたら、誰も気が付かないだろうなって。
でも意識しすぎて逆におかしかったのか…反省。
「走るの不安?」
「まぁ…ちょっとね。」
たぶん高野くんが言ってるのとは違う意味だけどね。
間違ったことは言ってない。
「大丈夫!
何かあったら、俺が挽回するから!
それに健人も今井さんもいるし。
みんなを頼ってよ、青山さん。」
「…っ。」
不覚にも、高野くんの言葉に泣きそうになってしまった。
みんなを頼ってしまってもいいのだろうか…。
でもそれって、
「迷惑じゃない?」
「そんなことない。
リレーはお互い頼るもんだろ?
それに俺は誰かに頼られるの、嫌いじゃないよ。
青山さんの頼み事なら喜んでやらせていただきます。」
「ふふっ、言い方…。」
高野くんは私を笑わせる天才かもしれない。
さっきまでの私が嘘みたい。
そうだよね。
リレーなんだから、私一人で頑張ってもダメじゃん。
お互い力を合わせないとね。
私の頼み事…。
「じゃあ…
優勝したいので、何がなんでもこのリレーは1位をとりましょう。」
「りょーかい。」
高野くんはふわっと微笑んでくれた。
その笑顔を見て、またドキドキしてくる胸。
走り去っていく背中を見て思った。
…ねぇ、渡辺さん。
私やっぱり無理だよ。
高野くんと話せなくなるなんて嫌だ。
あなたの言うことは聞けないや。
私は晴れやかな気持ちで定位置についた。

