私が大声をあげて驚いたのか一瞬ひるんだ渡辺さんだったが、すぐに元の態度に戻った。
「そう…
なら仕方ないわね、力づくでいくわ。」
そう言うと同時にみぞおちにグーのパンチが飛んできた。
「がはっ」
何も構えていなかったからダイレクトに腹にくる痛み。
その後洋服で隠れて見えないところを何度も殴られた。
渡辺さんの取り巻きも蹴ってくる。
さすがに3対1じゃ勝てっこない。
どのくらいたったかわからない。
私を思う存分殴ってすっきりしたのか、殴るのをやめた渡辺さん。
最後に私を突き飛ばした。
その先にはちょうど木があったせいで肩を強打し、倒れこむときに足をくじいてしまった。
「…っ。」
声にならない叫び。
痛みにたえる私に渡辺さんは吐き捨てた。
「あんたが高野くんに近づかなければこうはならなかったのに。
ほんとバカね。」
「…バカはあなただ。」
去ろうとしていた渡辺さんは私のつぶやきを聞き逃さなかった。
踏み出した足を止め、振り返る。
「…何ですって?」
「…あなたがどうこうしようが、私は私の好きなようにやる。
こんなことしても私は痛くもかゆくもない。
でも殴ったあなたの手は傷ついてるだろ?」
「…うっさい。黙りなさい。」
「私の心はどうもなっていないけど
あなたの心はどうなの?
心も体も傷つけて、あなたはそれで平気なの?」
「黙れって言ってんのよ!!」
がんっと蹴られた肩。
ちょうど痛めたところを狙ってきたみたいだ。
「…うっ。」
「あんたにはわかんないわよ!
『お人形さん』のあんたに、私の痛みなんてわかるわけないじゃない!!」
そう言い残して、渡辺さんは去っていった。
…お人形さん、か。
たしかに他人の痛みなんてわかんないよ、
でも、
あなただって私の痛みなどわからないだろ?
あーあ、動くのめんどくさいわ。
でも戻らないともっとめんどくさそう…。
私はゆっくりと立ち上がり、痛みに耐えながら応援席へ戻った。

